【第九話】決して一人では試さないでください…深夜の「合わせ鏡」
「赤ん坊に見せると良くないことが起こる」
「ベッドに向けて置くと魂を盗まれる」
「割ると7年間悪いことが起こる」……
国内、国外を問わず、多くのジンクスや迷信を持つ「鏡」。
真実を映し出すと神社でまつられていたり、童話では「世界で一番美しいのは白雪姫」と言い放ったり、民族・宗教を問わず世界的に霊力を認められている、数少ないアイテムの一つです。
この鏡と鏡を向かい合わせると映し出される、延々と続く無限のループは、とってもお手軽でもっとも身近なトワイライトゾーンと呼べるでしょう。
この「合わせ鏡」について、あなたはこんな話を聴いたことがありませんか?
* * *
深夜0時に合わせ鏡を覗き込むと、将来の自分が映る。
一人では何となく気味悪くて実践できないが、とある姉妹がハナシの流れでこれを実験した。
真夜中。
姉妹は鏡と鏡とを向かい合わせて合わせ鏡を作り、0時ちょうどに二人で鏡を覗き込んだ。
──ところが、鏡の像は緊張の面持ちで鏡を覗き込む姉と妹の二人の姿。
「やっぱり迷信だったんだ」
落胆する妹に、姉は怒りをぶつけてきた。
「アンタさっきから何ニヤニヤしてんのよ」
いわれのない叱責を受けた妹は必死に弁解したが、姉は「馬鹿にしている」と怒り心頭。二人はけんかをしたまま寝室に戻り、眠りに就いた。
翌朝。
妹は「何も起こらなかった安堵が自分を笑顔にさせたのかも知れない」と気付く。
そこで、姉にこのことを話すと、姉は不機嫌そうにこう言った──
「アンタは鏡に映った最初から笑ってた」
* * *
──いかがでしょうか。
時間帯が「深夜2時(丑三つ時)」とか「祖母の家で」というシチュエーションの付記や、「鏡の像が笑うのは、鏡の向こうの世界にいる自分と入れ替わったから」という解釈付きの類型もありましたが、いずれも姉妹のけんかに発展した後、翌朝になってゾッとする、という流れは共通しています。
また海外にも、合わせ鏡にまつわるこんな逸話があります。
* * *
オカルトに興味を持つ女子中学生が、合わせ鏡と聖書を使った、ある実験をした。
夜中に合わせ鏡を作り、その中間にろうそくを灯す。そこへ開いた聖書を置き、深夜0時ちょうどに両手で聖書を閉じると、悪魔の尻尾が挟まる、というものだった。
──実験は見事成功。
少女に捕らわれた悪魔は「願い事を叶えてあげるから逃がして」と懇願した。
その少女が、どんな願いを悪魔に叶えて貰ったのかは、誰も知らない。
なぜなら、願い事が叶ったことと引き替えに少女の命は悪魔に奪われてしまったから。
* * *
どことなく可愛らしい空想的な話の展開から、まさかの冷酷なしっぺ返し。
遊び半分で呪術を扱ってはいけないという、神妙な教訓すら感じます。
洗面所と浴室、オフィスやサービスエリアのトイレ、小道の複雑な交差点など、暮らしの中で探せば意外とよくある合わせ鏡の世界。
普段は気付いていないだけで「異界の扉」はいつでも、あなたが覗き込む機会を待っているのかも知れません。
<次回予告>
赤いコートに白いヒゲ。子どもたちが待ち焦がれるクリスマスの顔「サンタクロース」の都市伝説をお届けします。良い子のお家にも、悪い子の所にも、夜中にこっそり行きますよ……ふぉ?っ、ふぉっふぉっふぉっ!