【第十三話】20歳まで覚えていると…「アノ言葉」の本当に怖い真実。
「紫の鏡」
「赤い沼」
「イルカ島」……
どの言葉にも共通するメッセージがあります。
津々浦々の十代を怖がらせた、ちょっと迷惑な言霊(コトダマ)のものがたり。あなたはこんな話を聞いたことがありませんか?
* * *
ある病院に、19歳の女の子が入院していた。
彼女はある日、両親に貰った手鏡を紫色の絵の具で塗りつぶしてしまう。
後日、彼女にふとした後悔が芽生え、鏡を拭いたり洗ったりしてみたものの、紫の絵の具はいっこうに落ちない。
その日から彼女の容態は一変して悪化。
20歳の誕生日に、彼女は帰らぬ人となったという。
ほんの出来心で汚してしまった鏡が心残りだったのか、彼女は最期のその時までこう呟いていた──
「紫の鏡、むらさきのかがみ……」
以来、彼女の無念が「紫の鏡」という言葉に宿り、この逸話を聞いて20歳まで忘れない者には、死が訪れるという。
* * *
──いかがでしょうか。
忘れないと死んでしまうという、何とも理不尽な運命押しつけ型の物語ですが、「紫の鏡」にはもう一つ、別バージョンがあるのをご存じでしょうか?
* * *
A子は、楽しみにしていた成人式を目前に、交通事故で亡くなってしまった。
その通夜のこと。
A子のひつぎには、遺品として紫色の手鏡が納められていた。それは生前の彼女がいつも持ち歩き、大切にしていたものだった。
それを見た同級生のB子は、こう言った。
「今どき手鏡なんて持ち歩いてるから、鏡に魂を持って行かれたんだよ」
翌日。
A子のひつぎから紫色の手鏡が無くなっていることに両親が気付いた。いくら捜しても手鏡は見つからないまま、A子は火葬された。
──そして、
A子が楽しみにしていた成人式の日。
A子の紫色の手鏡はなぜか、B子の部屋から発見された。さらに会場へ来るはずだったB子は、今なお行方不明となっている。
この逸話を聴いて20歳まで忘れない者には死が訪れるという。
* * *
──さて、
この逸話を元に、二十歳になる年の年賀状に「紫の鏡」と書くイタズラをしたりされたりした方もいらしたようですが、その方々からこの笑い話を聞いている時点で、この物語が良く出来た作り話であることは明らかです。
この話を忘れようが覚えていようが、人間は悲しいかな、誰しもが永遠に生き続けることなど出来ません。
この都市伝説が持つメッセージは「二十歳まで覚えてたケド死なないじゃん!」とこれまでの恐怖に打ち勝つのと同時に、「死」とはやがて誰にでも訪れる出来事であることを再確認する、成人向けな「誕生日プレゼント」なのかも知れません。
──ところで、
この物語にはもう一つの説があるのです。
「二十歳までに忘れないと、結婚できない」
さきほど例に挙げた、年賀状に「紫の鏡」と書いた人も書かれた人も、取材した時点ではともに独身とのことでした。
「二十歳まで」と「二十歳から」、どちらでも恐怖を味わえる「紫の鏡」。本当に良く出来た都市伝説です。
<次回予告>
あるゲームをプレイしていると起こる不可解なバグや不思議な現象……ゲームソフトが現実にもたらす怪奇の数々とは──? どうぞお楽しみに!!